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「学歴なんざ、社会じゃ役に立たないんだよ」 [フィクション]

「学歴なんざ、社会じゃ役に立たないんだよ。ものを言うのは、実力だけだ。この取引先もな、3年前に俺が毎日毎日通い詰めて、やっと切り開いたとこなんだよ。一流の取引先なんだよ」
「は、はい。先輩」
「だから、一言一句の間違いもあっちゃならないんだよ。なのに、何だよここ。間違ってるじゃないか」
「す、すいません」

「おーい。この間頼んだ報告書、どうなっている?」
「あ、係長。あれですか?今、こいつに書かせてます」
「おい、俺はお前に頼んだんだぞ。研修中の新人に何で書かせてるんだよ」
「いーでしょ。学校の勉強ばっかやってきたよう頭でっかちな人間には、仕事の厳しさってもんを教えてやらないと」
「会社としては、きちっと研修で基礎を押さえた上で、初めて現場の仕事を教えることにしているんだよ。お前が勝手に仕事をさせるなよ」

「係長、僕ならあの、早く皆様のお役に立ちたいんで大丈夫です」
「君ね、そういう問題じゃないんだよ」
「す、すいません」
「口ばっかいっちょまえになってんじゃないよ」
「す、すいません」
「おい、ともかく、今書いている報告書を渡してもらえるかい。君は研修に戻るように」
「は、はい。申し訳ありません・・・」
「やれやれ。じゃ、俺が書きなおしますよ」
「・・・いや、その必要はない。これでいい」
「はあ。係長も新人にあまいっすねぇ」
「・・・・・・そうか?」


「さて、件のプロジェクトのメンバーを発表する。しつこいようだが、このプロジェクトは社運をかけたものだ。そのため、人選にあたっては学歴や経歴など過去にこだわらず、能力、人柄など、あらゆる観点から広く優秀な人材を選んだ」
「へへ、きっと俺も選ばれるな」
「そうですね。先輩ならきっとですね」

「・・・・それと、新入社員から一名。君だ」
「え?!私ですか?」
「・・・おいおい、すごいじゃないか。俺の教育の賜物だな」
「は、はい。ありがとうございます!」
「人選は以上だ。選ばれた人材は、君たちの労と成果に期待する」
「「え?」」

「納得できません!」
「せ、先輩!」
「ほう。何故かな」

「先ほど、『学歴や経歴などこだわらず』とおっしゃいました!ですが、例えばそこにいる男は、まだまともに仕事をこなすこともできない、学歴以外にとりえのない男です!俺が毎日毎日面倒見てやって、やっと仕事ができている程度の能力しかない!本当に能力を重視したというには、承服できかねます!」
「せ、先輩・・・」

「確かに、社としては"過去にとらわれない""優秀な人材"を選んだ」
「だったら!」

「だから、そういうことだ」
「・・・わかりませんが」
「!・・・・・・」

「なら、はっきり言おう。君は、プロジェクトが求めていた"優秀な人材"だとは、判断されなかったのだよ」
「!」

「確かに、過去の実績はある。それは認めている。だが、言っただろう。"過去にとらわれない"と。異論があるなら問うが、なら、"今の"君は何をなしたのかね?」
「・・・な、何って・・・3年前・・・」
「だから過去のことは聞いていないのだよ。そういう、相手の言葉を聴かない、という点も評価されなかった」
「・・・」

「大体、"面倒を見てやって"と君は言うが、そもそも、それが彼に必要だったのかね?」
「こ、後輩の面倒をみるのは、先輩の当然の仕事でしょう?!」
「そうだ。だが、君のは当然視のレベルを超えていた。その上、あれは、教育かね?」
「そ、そうですよ」
「だが、我々は、そうとは思っていないのだよ」
「・・・」
「そもそも、君は教育係でも何でもないだろう。君には君の仕事があったはずだ。それは、彼の教育ではない」

「過去に実績があったことは周知の事実だ。だが、それで増長してしまったな。それは会社の責任でもある。
今回の件は、会社としてはむしろ君に復活の機会を与えたぐらいのつもりなのだよ。
猛省し、過去を超える働きを期待する。以上だ」
「・・・・・・」


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